上場準備では専門家の協力が不可欠

上場準備は様々な外部協力者と進めていくことになります。どれだけ有能なメンバーや上場経験者を社内に揃えたとしても、自社単独で上場をするということはできません。

上場準備のステージごとに必要となるプレーヤーが異なったりするため、契約をする時期についてはプレーヤーとの業務の必要性ごとに判断する必要があります。
あくまでサンプルですが、主なプレーヤーとステージごとの業務の内容は下図のようになります。この中で不可欠なプレーヤーは、証券会社、監査法人、信託銀行(株主名簿管理人)、印刷会社となります。IPOコンサルタントは社内で知識のある方がいれば必要不可欠とは言えないですし、ビジネスマッチングやアドバイスをしてくれるVCについても、不可欠というわけではなく、会社の状況に応じて検討すればよろしいかと思います。
なお、色々と協力してくれることとなる株主や社外役員も上場準備における協力者として外せませんが、本稿は外部協力者についての説明となるため、株主や社外役員などについての記載は別稿に譲らせて頂きます。

証券会社

まず一番に証券会社との業務が挙げられます。
証券取引所に上場の申請をする際には、主幹事証券の推薦状を添付する必要があるため、上場準備においては不可欠と言えます。また、証券取引所での自社株式の取引開始は、まず証券会社に株式を引き受けてもらって、その証券会社を通して一般投資家が取引を行うという流れになります。
ここで主幹事証券会社とは、上場時の株式引受をメインで行い、株式の売出しの条件などについての決定も行う証券会社を指し、通常はこの主幹事が、証券取引所審査に向けてのコンサルティングや証券取引所への推薦状の作成などを行うことになります。上場時の株式を取り扱う証券会社は主幹事のみではなく、一般的には10社前後の証券会社が関わることになり、主幹事証券以外の証券会社は引受幹事証券などと呼ばれ、主幹事と比較すれば小さい割合ですが、上場時の株式の販売を行います。
主幹事の選定は、通常は大手の数社に限られ、その中から選択することになります。コンサルティング報酬や上場時の時価総額などについてコンペをしてもらい、その中から選定することもありますし、自社との相性で選定することもあるかと思います。この証券会社の選定で、上場時の時価総額のレンジがある程度決まってしまう部分もありますので、主幹事証券の選定は重要な作業といえます。
また引受幹事証券の選定においては、自社の株式を取得することとなる株主にどのような属性の投資家を求めるのかで判断することとなります。ネット証券での取引を期待していたり、裕福な個人に株主になってもらうことを期待したり、まだビジネス的にも進出出来ていない地方で認知度を上げたい、といった狙いでそれぞれに合った特性を持つ証券会社を選ぶことが多いです。

監査法人

監査法人との契約も不可欠です。上場準備のスケジュールでも述べた通り、上場の申請をするにあたっては、上場申請期の直前2期分の財務諸表について監査法人の会計監査を受ける必要があり、その監査の結果としての監査証明を提出する必要があります。
監査法人の会計監査は主に会社の財務諸表について、記載されている金額が正しいかどうかのチェックを行いますが、そのチェックを行う過程で、会社の内部統制の整備状況についてもチェックをします。会社が1年間に行った取引を全て監査することは現実的ではないため、会社の内部統制が有効に機能している場合には、監査対象をある程度の範囲に絞って監査することとするので、内部統制の有効性のチェックを行うのです。ここに、内部統制がしっかりしていない状態の会社が監査法人となかなか契約してもらえない理由があります。監査の過程で内部統制に関する要改善事項の指摘を受けたら、それに丁寧に対応していけば、上場会社のレベルでの内部統制構築に近づけるといえます。
なお、今まで会計監査を受けておらず、税務申告向けの決算のみを行っていた会社では、監査の結果従来とは全く異なる決算数値になる可能性があります。会計監査は企業会計基準で行わる一方で、税務申告向けの決算は税法基準で行われるのですが、両者は異なる概念を基にしているため、結果も異なることが多いのです。具体的には、繰延税金資産の計上や、賞与引当金の計上など、今まで決算書にはなかった勘定科目が出てくる可能性があります。当然、税務申告書を作成するなかでは、これらの科目は税金の計算上取り除かれることになりますので、会計上の利益と税務上の利益の金額にズレが生じることとなります。
会計監査は時間的にも金額的にもコストのかかるものですが、上場会社は全て行っていることであり、上場するためには必ず必要なものとなります。

信託銀行

株式を上場するにあたっては、株主名簿管理人を選定する必要があるため、信託銀行との契約も不可欠です。信託銀行の選択肢は限られますが、金額的な違いは大きくないため、上場後の株主に対するサービスの内容や、株式報酬関連の特殊なスキームに精通しているかどうかなどを判断材料として選定することになるのではないかと思います。
上場にあたって選定が必要となる株主名簿管理人ではありますが、上場準備の段階で契約するということも十分に考えられます。株主名簿管理人への報酬は、上場後は株主数などに応じて従量課金となる部分が多いため決して小さい金額ではないですが、上場準備中の段階では比較的安価に契約をしてもらえます。その上で、株主総会の運営などのアドバイスをくれたり、様々な書類のテンプレートをくれたり、会社法関連の情報をアップデートしてくれたりと、多くの専門的な情報を要する総務業務の助けとなります。
また上場前における新株予約権の発行においても、シンプルな税制適格ストック・オプションの発行ではなく、信託を絡めたスキームなどを相談したりすることも出来ます。

印刷会社

上場申請書類の中には、有価証券届出書(上場会社でいう有価証券報告書に近いもの)などの書類を添付しますが、このような書類は専用のソフトを用いて作成したり、複数部数を冊子で発行して提出・配布することとなります。そのため、印刷会社との契約は法的に、または証券取引所のルールなどにより義務となっているものではありませんが、実質的に不可欠なものとなります。
この分野でのプレーヤーはプロネクサスと宝印刷の2社の寡占状態となっています。
2社がしのぎを削っているマーケットのため、金額的な大きな差はありません。そのため書類作成ソフトの操作性などで選択することになると思います。問い合わせによりフリートライアルアカウントを発行してもらえば、実際に使用してみての判断ができます。

IPOコンサルタント

IPOコンサルタントとの契約は絶対必要ではありませんが、上場準備においては幅広い知識が必要とされるため、専門家のアドバイスは有用と考えられます。全体的な流れを管理・アドバイスできるコンサルタントとの契約も考えられますし、上場準備の過程で対策が必要となる一定の業務ごとに外部の専門家と契約するという進め方も考えられます。
個別業務への専門家としては、人事コンサルタント、開示書類作成代行会社、株価算定の会社などが挙げられます。これらが全てではなく、必要に応じて専門家が異なります。
近年の上場審査において、労務は最重要審査項目の一つとなっており、一つ不適切の判断をされるだけで上場審査そのものがストップしてしまうような項目もあるため、労務関連の整備は確実に行う必要があります。主幹事証券のコンサルティングの一環でも労務の整備体制はチェックを受けますが、人事コンサルタントを入れてしっかりと体制を整えることは、より上場を確実にする上では必要なことといえます。また、上場準備という目的だけでなく、人事制度を整えることは、社員のモチベーションを上げたり、労働環境を改善したりする上でも有用なことと考えられます。
開示書類の作成代行会社は、上場申請書類の一部である「Iの部」や「IIの部(マザーズにおいては「各種説明資料」)」の作成などを代行してくれます。これら書類はそれぞれ数十ページ、場合によっては百ページを超すボリュームのため、社内リソースのみで作成するには時間がかかってしまいますし、慣れていない業務のため要件を満たす書類作成が出来ないという可能性もあります。作成代行会社は多くの書類を作っている経験があったり、市場でのトレンドなどにも精通しているため、迅速に、高品質の開示書類を作成してもらえます。また、Iの部については上場後も有価証券報告書という形で似た書類を継続して作成しますが、IIの部については上場後に作成することもないため、社内にノウハウを蓄積するメリットも特にありません。そのため、Iの部については自社で作成し、IIの部だけは作成をアウトソースするというケースもあります。
上場までの過程で、投資家に対して新株発行により資金調達することが多いと思いますが、その新株発行の際の会社の時価評価については、主観的な金額ではなく、客観的な金額であることが求められます。そのため、公認会計士やM&Aコンサル会社などの専門家に依頼して、新株発行時点での会社の時価総額を算定してもらう必要があります。その時価算定報告書は、証券取引所の審査において提出を求められることもあります。

上場準備における外部協力者にはこれ以外にも考えられますが、主だったところを紹介させて頂きました。上場準備の過程では多くの業務がありますので、社内リソースやコストとも相談の上、必要に応じて外部協力者との契約をしていくことが有用と考えられます。